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EESレポート

EESレポート

洋上風力発電に係る環境影響評価項目(例)とその特性

2014/07/01

レポート

イー・アンド・イー ソリューションズ株式会社
温暖化・エネルギー対策グループ
新島啓司

本レポートは「産業と環境」2014年7月号に掲載されたものです。

洋上風力発電の現状

洋上風力発電(以下、「洋上風力」)は、一般に陸上よりも安定した風況が得られ、設備利用率が高いこと、大型風車の導入が可能なこと等により、大きなポテンシャルを持つ再生可能エネルギー源として世界から注目されている。

世界各国の状況を見ると、欧州では洋上風力の導入が盛んであり、EWEA(European Wind Energy Association)によれば、2013年末現在、66の洋上ウィンドファームが稼働しており、設備容量は合計656万kWに達する。また、米国、中国、台湾、韓国などにおいて大型の洋上風力発電所の導入が計画されている(GWEC、2014)。


日本の洋上風力発電に係る現況

我が国は世界第6位の排他的経済水域を有しており、海洋エネルギー資源の開発が期待されている。海洋エネルギーの一つである洋上風力の導入ポテンシャルは膨大なものがあり、現状の電力系統への設備容量等様々な制約を考慮した場合でも、9,596万kWはあるとされる(NEDO、2011)。

現在、北海道せたな町・山形県酒田市・茨城県神栖市等の港湾域内で洋上風力発電事業がすでに運開している。また、千葉県銚子市・福岡県北九州市でNEDO着床式洋上風力実証研究が行われるとともに、福島沖で経済産業省の浮体式洋上風力発電実証研究、長崎県五島沖で環境省の浮体式洋上風力実証研究が実施され、国レベルでの実証研究が盛んにおこなわれている。今後は、さらに茨城県神栖市、青森県むつ市等では本格的大規模洋上風力発電事業が計画されている。このように、我が国でも徐々に洋上風力発電の導入・拡大の気運が高まりつつあるが、高い建設コスト、台風等我が国特有の厳しい自然条件下での建設や風車管理、環境影響評価手法が未確立であること、地元漁業との協調等の課題が存在する。

経済産業省は洋上風力の今後の導入の促進を図るため、固定電力買取価格について、建設コスト等実情を踏まえ、それまで陸上・洋上を区分せずに同じ価格(22円/kWh)としていたが、平成26年度より新たに洋上風力の買取価格を設定し、36円/kWh(陸上は22円/kWhに据え置かれた)とした。国としても、今後の洋上風力開発に期待が懸けられていれる。


洋上風力発電の環境影響評価項目とその特性

欧州等では洋上風力発電導入に係る環境影響評価が義務付けられている。
我が国においても条例レベルで風力が先行的に対象となっていた都道府県もあったが、国においても、環境影響評価法の改正により、2012年10月1日から洋上を含む風力発電所が法の対象となり、出力1万 kW 以上は第一種事業、出力7,500kW 以上1万 kW 未満は第二種事業として扱われることになった。

環境影響評価法施行令の一部改正に伴い、経産省主務省令(経産省令第57号別表第五)に風力発電の参考項目(以下、「参考項目」)が加えられたが、環境影響評価項目の選定方法、調査・予測・評価の手法等についてはまだ整理されていない。

今後、洋上風力発電導入に当たって必要となる環境影響評価の参考資料として、本稿では洋上風力発電に係る国内・海外の環境影響評価事例等を参考に、洋上風力発電に特化した影響評価項目を取り上げ、その特性等について述べることとする。

表1は参考項目をベースに、洋上風力に特化した環境要素区分別の影響評価項目の選定例である。なお、本選定項目は洋上風力に係る環境影響評価項目の一般的な特性等であり、実際の環境影響評価項目選定時は事業特性、地域特性を留意する必要がある。

本表を元に、洋上風力の環境要素ごとに環境影響評価項目の特性について以下に記した。

表1 環境影響評価法に準じた環境要素区分別の環境影響評価項目の例

1)大気質

洋上では、主として工事中の作業船由来の窒素酸化物や粉じん等の住居等への影響が対象に挙げられる。

また、海底ケーブルの陸揚げ・陸上変電所等の陸上域での工事も伴う可能性があるため、陸上での建設機械・資材輸送車両による大気質への影響も勘案することが重要と考えられる。

2)騒音・超低周波音及び振動

洋上では、工事中は作業船や風車基礎部の打設時の騒音・振動、供用中は風車の稼働に伴う騒音・超低周波音の影響が対象に挙げられる。しかし、騒音・超低周波音は距離に伴い減衰するため、最寄の住居等までの距離が大きくなるほど生活環境への影響が小さくなると想定される。

一方、海底ケーブルの陸揚げ・陸上変電所等の陸上域での工事も伴う可能性があるため、工事中の建設機械等による騒音(超低周波音)・振動への影響も勘案することが重要である。

3)水質(水の濁り)

洋上風力の一般的な施工内容としては風車基礎部の海底設置及び海底ケーブルの海底敷設等が挙げられる。このため、工事中の浚渫や造成等施工由来の海底質の巻き上げ等による水の濁りが対象に挙げられ、その程度によって周辺の海域環境及び魚介類等海棲生物への影響が想定される。開発海域の海底質等の状況、設置工法によって水の濁りの発生する量が変化ため、事業特性・地域特性に応じた予測評価を実施することが望まれる。

4)底質

洋上風力の施工内容としては前項(水の濁り)同様、風車基礎部の海底設置及び海底ケーブルの海底敷設が挙げられ、それらの浚渫工事によって海底部に含まれる重金属等の有害物質が生じる可能性が考えられる。さらに、このことにより、周辺の海域環境及び魚介類等海棲生物への影響が想定されるため、事業特性・地域特性に応じて影響評価項目として選定することが望まれる。

5)重要な地形および地質

海域における重要な地形および地質には、干潟やサンゴ礁等があげられる。洋上風力による影響は、風車の存在による直接的な影響のほか、漂砂や洗掘による間接的な影響も考えられる。このため、事前に文献等により周辺に重要な地形・地質がないかどうかを調査し、ある場合は影響評価項目として選定することが望まれる。

なお、風車だけでなく、送電線等の海底ケーブルの陸揚げポイント、並びに陸上施設(変電所、送電線等)がこれら重要な地形・地質に影響を及ばさないかにも留意し、可能性があれば、影響評価項目として選定することが望まれる。

6)風車の影(シャドーフリッカー)

風車の影による生活環境への影響が考えられるが、開発海域から沿岸(生活圏)までの離岸距離・設置方位・風車規模等によって影響範囲が異なるものと考えられる。このため、これらを考慮して影響評価項目として選定することが望まれる。

7)動物

洋上風力発電施設の工事時・稼働時において影響を受ける可能性がある主な動物としては、底生動物、魚類(漁業生物)、海棲哺乳類、鳥類が考えられる。

海底部に生息する貝類・甲殻類等の底生動物は、浚渫や造成等施工由来の水の濁り、基礎部の存在等により生息環境に対する影響を受ける可能性が考えられる。

特に海底部に生息する底生性魚類は、浚渫や造成等施工由来の水の濁り、基礎部の存在等により生息環境に対する影響を受ける可能性が考えられる。

イルカ等の沿岸性の海棲哺乳類は、基礎部の存在、工事時・風車稼働時の水中騒音等により生息環境に対する影響を受ける可能性が考えられる。(写真1、写真2

写真1 海棲哺乳類受動的音響観測機投入状況

写真1 海棲哺乳類受動的音響観測機投入状況


写真2 受動的音響観測機を設置したブイ

写真2 受動的音響観測機を設置したブイ


カモメ等の海鳥類は、風車稼働時の衝突事故(バードストライク)や生息環境に対する影響を受ける可能性が考えられる。

上記、動物への影響は開発海域における生息・分布状況、工事内容・風車規模・運転状況等によって影響レベルが異なるものと考えられる。

陸域に生息する重要な動物については、変電所の存在や送電線が影響を与える場合もあるので、特に変電所や系統連結点が遠方にある場合などは重要動物がいないか事前に文献等で調査し、生息する可能性がある場合は、影響評価項目として選定する。

8)植物

洋上風力の工事時・供用時において影響を受ける可能性がある主な植物としては、海草・藻類が考えられる。

海底部に分布するアマモ等の海草やアラメ等の藻類等の植物は、浚渫や造成等施工由来の水の濁りによる生長阻害、基礎部の存在等により生息環境に対する影響を受ける可能性が考えられる。海草・藻類への影響は、開発海域における生息種・分布状況、工事内容・風車規模等によって影響レベルが異なるものと考えられる。

陸上の重要植物については、海底ケーブルの陸揚げポイントや陸上施設に重要植物がある可能性のある場合は、影響評価項目として選定する。

9)生態系

洋上の生態系全体については、上述の通り、動植物への影響が想定されるため、影響評価項目として選定する。動植物の予測結果を元に、「上位種」、「典型種」、「重要種」等の注目種を選定する。

10)景観

洋上風力は、風車の存在による影響が景観に及ぼす影響があるため、影響評価項目として選定する。なお、主要眺望視点としては陸上の景観眺望点だけでなく、観光船やフェリー等の航路上等も考えられる。景観への影響は、開発海域における離岸距離、風車規模等によって影響レベルが異なるものと考えられる。

11)人と自然との触れ合いの活動の場

洋上風力の場合、工事中の騒音・振動、並びに風車の存在による景観・漂砂の影響、及び稼働中の騒音により、海水浴場や、ダイビングスポットなどの人と自然との触れ合いの活動の場への影響が想定される。このため、事前に調査し、周辺に存在する場合は影響評価項目として選定する。

12)その他洋上風力発電に特化した環境影響評価項目

参考項目の環境要素には含まれていないが、その他の洋上風力発電に特化した環境影響評価項目を以下に示した。

① 海底地形(漂砂、洗掘)
主に風車基礎部の設置による流れの変化等に伴った漂砂・洗掘等が影響評価項目の対象と考えられる。漂砂・洗掘は開発海域周辺の海底質等の状況、基礎工法・規模等によって影響レベルが異なるものと考えられる。漂砂・洗掘等の海底地形の改変は、周辺の海岸構造物、海水浴場、魚介類等生息環境等へ影響を与える可能性があるため、重要な環境影響評価項目と考えられる。
② 水中騒音
主に工事・作業船由来及び風車供用時由来の水中騒音が環境影響評価項目の対象と考えられる。水中騒音は開発海域周辺の水深・地形等の状況、設置工法・風車規模等によって影響レベルが異なるものと考えられる。水中騒音は主に海棲哺乳類・魚類等海棲動物への影響が懸念されており、海外の洋上風力環境影響評価事例では影響評価項目として選定されている。

まとめ

我が国における洋上風力発電は、港湾域から一般海域へ、単機から複数機へと拡大の方向に発展しつつあるが、建設コスト、設置工法・維持管理、環境影響評価、漁業協調等の課題が存在する。

洋上風力発電の導入普及に当たっては、海域利用者である地元の漁業関係者等との協調が必要不可欠であり、そのためには海域環境に係る環境影響評価もまた必要不可欠である。

現時点、環境影響評価法における風力発電所(洋上含む)の参考項目が公示されているが、洋上風力発電所に係る環境影響評価の項目選定、調査・予測・評価に係る手法はまだ確立されていない。

今後、経済産業省・NEDO・環境省における洋上風力発電等の実証研究等を基に、我が国に自然条件等を考慮した洋上風力発電所に係る環境影響評価の手引き等が早期に公表されることが望まれる。