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EESレポート

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改正土壌汚染対策法による土壌汚染リスク評価の展望と課題

2010/04/01

レポート

イー・アンド・イー ソリューションズ株式会社
環境事業部 環境審査・対策グループ
白井昌洋

本レポートは「産業と環境」2010年4月号に掲載されたものです。

1.土壌汚染対策におけるリスク

土壌汚染対策におけるリスクとは、土壌汚染対策法では「土壌汚染による人の健康被害の防止に関する措置を定めること等により国民の健康の保護」、すなわち健康リスクが主眼となっているが、土壌汚染は人の健康以外にも生活環境や生態系に対しても影響を及ぼすことが知られている。そのため、土壌汚染リスクは、健康リスク、生活環境リスクおよび生態系リスクを含めた環境リスクとしてとらえることができる。

環境リスクとは、化学物質が環境を経由して人の健康、生活環境および生態系に悪影響を及ぼすおそれ(可能性)のことを言い、図1に示す式で表されることが多い。化学物質による環境リスクの大きさは、化学物質の有害性(ハザード)の程度とばく露対象が化学物質にさらされる経路(ばく露経路)により化学物質を摂取した量(ばく露量)で決定される。有害性の高い化学物質であってもばく露量が少なければ環境リスクは小さくなり、有害性が低い化学物質であってもばく露量が膨大になれば環境リスクは大きくなることを示している。


図1 化学物質による環境リスク

図1 化学物質による環境リスク

この考えを土壌汚染に当てはめると、土壌汚染が存在している土地であっても、①ばく露対象となる人が存在しない、②ばく露経路を遮断することで人へのばく露量を低減させる、および③土壌汚染を除去することで、その土地に対する土壌汚染リスクを小さくするあるいはゼロとすることが可能となる。

また、土壌汚染リスクには、環境リスク以外にも不動産リスクとしての評価が求められる場合もある。土壌汚染調査が実施される契機としては、土壌汚染対策法や条例、企業の自主的な取り組みなどの他に不動産取引を伴う場合も多いことが知られている。不動産リスクの観点から見ると、土壌汚染が存在すると土地としての資産価値は大幅に低下してしまうため不動産リスクは大きくなり、汚染を除去することで資産価値が上がり不動産リスクは小さくなる。

したがって、土壌汚染対策においてリスク評価を行う場合は、環境リスクと不動産リスクの両面から検討する必要がある。

2.改正土壌汚染対策法における土壌汚染リスク評価

改正土壌汚染対策法(以下、改正土対法)が本年4月1日から施行されたが、改正の大きなポイントとして次の四点が挙げられている。

  • ①土壌汚染状況の把握のための制度の拡充
  • ②規制対象区域の分類等による講ずべき措置の内容の明確
  • ③搬出土壌の適正処理の確保
  • ④指定調査機関の信頼性の向上

この中では、特に「②規制対象区域の分類等による講ずべき措置の内容の明確化」が規定されたことが土壌汚染リスク評価の観点からすると大きな改正であると言える。

改正土対法では、健康リスクのおそれによる規制対象区域および措置方法の選定方法が改正前の土壌汚染対策法(以下、旧土対法)と比べて明確になった。指定基準(土壌溶出量基準・土壌含有量基準)に不適合であった場合、人の健康被害のおそれの有無を判断した上で規制対象区域(要措置区域・形質変更時要届出区域)の指定が行われることになった(図2)。

図2 区域指定のプロセス

図2 区域指定のプロセス

特に、土壌溶出量基準に不適合である場合は、都道府県が当該地周辺の地下水の利用状況について調査を行い、飲用井戸の有無によって要措置区域か形質変更時要届出区域かに決定されることになる(図3)。改正土対法では、原則として講ずべき措置(指示措置)では一部の例外を除き封じ込めによる工法が求められており、どちらかの区域に指定された場合であっても敷地内に汚染土壌が残存した状態での管理が求められることになる。

図3 要措置区域等に指定される土地の基準

図3 要措置区域等に指定される土地の基準

例えば、同程度の土壌汚染があるサイトがあっても、周辺での飲用井戸の有無により一方は要措置区域、他方は形質変更時要届出区域に指定され、それぞれの区域に応じた措置方法が選択されることになる。すなわち、健康リスクとしての土壌汚染リスクを考慮した土壌汚染対策が行われることとなった。

一方、旧土対法においてもリスク評価の考え方は取り入れられていたが、ここでのリスク評価は汚染物質を直接摂取することによる人の健康影響を考慮した土壌含有量基準の設定や、ばく露経路を考慮した措置方法の決定であり、健康リスクとしての土壌汚染リスクを考慮した土壌汚染対策までには至っていなかった。

不動産取引においては、土地利用状態に係らず汚染が除去されるリスクゼロが求められるケースが多く、汚染土壌の掘削除去・敷地外処分が多く行われている。掘削除去・敷地外処分のメリットとして、敷地内から汚染土壌が完全に除去される、工期が短期間であるなどが挙げられる一方で、デメリットとして、対策費用が他の工法と比べて高額になることもある、

搬出先に環境負荷を与える要因となる、などの意見が挙げられている。また、対策費用が高額となり土地売却額を上回ってしまう場合などは、結果的に土地活用が困難な土地(ブラウンフィールド)の増加に繋がっているとも言われている。

今回の改正では区域指定に応じた措置方法が選択されるため、掘削除去・場外処分が主体であった土壌汚染対策が見直され、汚染土壌が残存している状態を前提とした健康リスクが考慮された土壌汚染対策(リスク管理)が促進されると考えられる。

また、汚染土壌が敷地内に残存していたとしても、ばく露経路が遮断されることで人への健康影響がないと判断されれば、限定された使用方法ではあるものの不動産として利用価値が上がることから、不動産リスクの面からも土壌汚染対策におけるリスク評価は促進されるものと考えられる。

3.土壌汚染リスク評価の有効な活用

改正土対法では健康リスクとしての考え方が明確化されたが、土地利用状況によるリスク評価までは行われていない。土壌汚染リスク評価は、我が国よりも欧米の方が先進的に取り組んでいることが知られている。特にアメリカでは、スーパーファンド法(「包括的環境対策賠償責任法」および「スーパーファンド修正および再授権法」)の中でリスク評価に関するガイドライン(RAGS:Risk Assessment Guidance for Superfund)が定められており、このガイドラインに基づきサイトごとでのリスク評価モデルを使用した定量的なリスクの算定が行われ、サイトごとの土地利用状況を考慮した対策方法が検討されている。また、このガイドラインにはリスク評価手法のみが記されているのではなく、対策後のモニタリングにおける効果の検証、リスク評価結果を踏まえたリスクコミュニケーションなども含まれている。

環境省水・大気環境局が平成19年6月に設置した「土壌環境施策のあり方に関する懇談会」において今後の土壌汚染施策のあり方について議論されており、サイトごとの汚染状況に応じた合理的かつ適切な対策の促進方策として、以下の検討が行われた。

  • ①現場の汚染状況に応じた対策の選定に当たって現場毎のリスク評価(サイトリスクアセスメント)の結果を活用することが可能か
  • ②現場の汚染状況に応じた対策を柔軟に選択できることとする場合に対策の妥当性をどのように確保していくべきか
  • ③対策の必要性を判断する汚染状況の目安について、土地利用用途をより考慮すべきかどうか
  • ④周辺住民とのリスクコミュニケーションを対策現場で円滑に進めるためにどうすべきか。また、土壌汚染のリスクに関して、国民の適切な理解を得ていくための普及・啓発をどう推進していくべきか

ここで、サイトリスクアセスメントとは、サイトごとの土地利用の条件および汚染状況(汚染物質、汚染濃度、汚染の広がり)などに応じて、人の健康リスクを個々に判断して、対策の必要性を判断する方法であり、欧米で一般的に行われているリスク評価と同様な方法である。

サイトリスクアセスメントを行うことで、サイトごとの基準が決定されるなど土壌汚染対策におけるリスク評価がより促進され、その結果、塩漬けとなっていたブラウンフィールドにおいても再利用・再開発が行われ、ブラウンフィールド問題の緩和に繋がると考えられる。

4.土壌汚染リスク評価を活用する上での課題

土壌汚染対策においてサイトリスクアセスメント手法を用いたリスク評価を行うことのメリットは大きいと思われる。しかしながら、前述の「土壌環境施策のあり方に関する懇談会」でも検討されているが、実際に土壌汚染対策で活用されるためには大きく次の2点が課題として挙げることができる。

(1)サイトリスクアセスメント手法およびガイドラインなどの確立

サイトリスクアセスメント手法に基づく土壌汚染リスク評価を行うためには、手法および手法を運用させるためのガイドラインなどが必要となる。この中には、定量的なリスク評価を行うための我が国の状況を踏まえたリスク評価モデルの開発や、リスクコミュニケーションも含まれる。

(2)普及・啓発

土壌汚染対策においては長年リスクゼロが求められてきたため、汚染土壌のリスク管理という考え方に移行しにくいことが考えられる。我々は生活の中で様々なリスクについて自分自身でリスクの大小を評価しているが、不動産に関してはリスクゼロを求める傾向にある。そのため、リスク評価を活用するためには事業者、開発者、行政機関、地域社会、住民などを含めた利害関係者(ステークホルダー)への普及・啓発などが必要となる。

5.まとめ

改正土対法では、土壌汚染対策において土壌汚染リスクという考え方が旧土対法よりも明確になったと言える。しかしながら、土壌汚染リスク評価手法に関しては、欧米で行われているように定量的な評価を含めた手法が主流であり、将来的には我が国においても導入を検討せざるを得ない状況になると考えられる。

我が国においてサイトリスクアセスメント手法に基づく土壌汚染リスク評価が確立され、サイトごとの汚染状況に応じた適切な対策が行われることで、環境リスクのみならず不動産リスクであるブラウンフィールド問題の対策にも有効となると考えられる。

参考文献

  • 実務者のための「土壌汚染リスク評価」活用入門、社団法人 土壌環境センター技術委員会リスク評価適用性検討部会